起・承・転・結 Self Novel
「男と女」をテーマにしたNovel Blogです。日常のどこにでもありそうな「等身大」をテーマにした老若男女が織りなすドラマをオリジナル小説で。

等身大の影 vol2

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哲平の歓迎会の2次会でカラオケに来て、そろそろ2時間が時が経とうとしていた。
部屋の熱気と音とお酒のせいで気分が悪くなりトイレへ行った。トイレの入り口の通路で、うつむき加減だった私は人とぶつかった。
「あっ、すみません」と謝りながら見ると、哲平だった。哲平は思った以上に長身で、ちょうど胸の辺りで私の頭が当たった感じだった。
「痛ぇー」
「ホント、ごめん。前見てなかったから。大丈夫」
「って、ウソです。大丈夫。俺こう見えてもサッカーしてましてから。」と哲平は笑いながら言った。
「千秋さんこそ、大丈夫ですか?顔、青いけど・・」
「ちょっと、飲み過ぎたのと、部屋暑いから・・」
「じゃ、先行って待ってますね」「・・・・うん」
 なんか、ドラマで良くあるシーンみたいじゃん。はは、と思ったが何故か心臓がバクバクしてた。
哲平の胸にぶつかった時、その大きさは久しぶりの感覚だった。
男の人の胸って、何でも受け止めてくれる、そうあの上司との時のように・・・。
トイレの鏡で化粧直しをしながら、あの不倫してた頃の感覚を思い出していた。
 「何で今頃思い出すんだろ。あんな過去の事」
独り言を言いながら、トイレから出て部屋へ戻った時、えっ、と思った。
部屋の中からあの唄が聞こえてきたのだった。
 それは哲平が歌っているものだった。

あの唄。そう、ミスチルの『しるし』だ。
−結ばれなくても、君は僕の記憶に鮮明に残る・・−という内容の唄だ。
これは、かっての不倫相手の上司が良く歌っていた唄だ。
二人の状況に「終着点」はないが、その想いだけは生き続ける。
その上司はそんな想いをこの唄に託し、そして私はこの唄を・・・・受け止めていた。

さっき哲平にぶつかった事、久しぶりに聞いたこの唄とで、あの甘くて辛い何とも抑えきれない感情がこみ上げてきた。
 そして不覚にも涙ぐんでしまった私。
隣にいたミナがそれに気づき「どうしたの?千秋?」と顔を覗き込む。
「なんか、気分悪くて・・・」と一応はごまかしてみたものの、次から次へとフラッシュバックのように鮮明に蘇る記憶に、抑えきれなくなり
「・・・すみません、お先に失礼します」と部屋を飛び出してしまった。

 店を出ると夜風が冷たくて、火照った頬をクールダウンしてくれるようだった。
しかし、お酒のせいで足元はフワフワした感じだ。
 大通りへタクシー乗り場へ向かう途中、あの封印してきた記憶の事、そしてあの唄、それを歌う哲平の事が頭の中でグルグル交差していた。
「なんで、哲平の事が・・」
その時だった、背後から声がした。誰か呼んでいるようだった。
振り向くと、哲平が走ってこっちへ来る姿が目に入った。
えっ?
哲平はハァーハァー言いながら近づき「・・千秋さん、大丈夫ですか・・」
「・・・・・・・」
「急にどうしたんです」
「・・・・・・・」
「千秋さん・・泣いて・・る?」
「・・・・・・・」
 心配そうに覗き込む哲平を見て、私は訳が分からないまま、哲平にしがみついていた。
「千秋さん・・・・」
驚いた様子で見ていた哲平。だが、そのうちにしっかりと私を抱きしめていてくれた。
「なんか知らないけど、このままで良かったら・・・・・・」
哲平の広くて大きな胸に顔を押しつけたまま、ただ、私は頷いているだけだった。


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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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